CGを一般化、幅広いサービス提供を目指す。

「エーリンクサービス」は、企業などの販促用オリジナルバッグのネット受注販売で全国シェア1位を誇る。ものづくりから始まった同社は、エンタメ業界などでなじみの深い3DCG(3次元コンピュータグラフィックス技術)に着目して自社で多様なツールを開発。顧客コミュニケーションの質および販売業務の効率性を大幅にアップさせた。また成果を挙げたシステムを応用し、WEB上の3D空間内の店舗で、ショッピングや展示会などがリアルに体験できるVR(バーチャルリアリティ)機能を構築。低コストで他の中小企業へ提供するサービスを開始している。

ポイント

  • 1ものづくりの規模拡大により、顧客サービスの向上やサンプル製作コストの抑制が課題に。

  • 2課題を解決するため、社内での3DCG技術者の人材育成に成功。

  • 3成果を挙げたシステム自体を応用し、他の中小企業へ低コストでVR機能を提供するサービスに乗り出した。

課題が新たな発想を生み、技術を進化させる。

エーリンクサービスは2009年、企業などが販促用に用いるバッグの受注販売からスタートした。資金に余裕がない中、自前でECサイトを構築。当初から全国向けのネット販売を主軸にしていた。

売り上げは年々順調に伸び、スタッフも少しずつ増えたため、バックの製造そのものを外注ではなく社内生産に切り替えた。その頃から課題となっていたことの一つが、製品を受注する際の顧客とのコミュニケーションだ。色や素材などのバリエーションが増えるほど、打合せで顧客の要望を詳細に聞く必要が出てくる。また、その要望をわかりやすく形にしたサンプルを逐一製作する時間やコストも重い負担だった。

これらの課題をクリアするため着目したのが3DCG技術。Web上の3Dモデルで商品のデザインや雰囲気を分かりやすく提示できれば、顧客に仕上がりのイメージを明確に掴んでもらえる。打合せなどのコミュニケーションにかかる負担や、サンプルの製造コストを抑えることができて効率的だと考えた、また山本社長はさらに一歩踏み込み、同様のシステムを必要としているECサイトはほかにもたくさんあり、これをサービスとして提供するビジョンを描いた。

社運を賭けて開発に着手。満足できるレベルに到達するまでに膨大な資金と数年の歳月をかけ2020年8月、自社のECサイトに3DCGを使ったバック受注のシステムを導入した。

世界トップレベルを目指すWebGL技術。

課題である顧客コミュニケーションの向上と効率化のため3DCGシステムの開発を決定したものの、CG技術に関連した優秀な人材がなかなか集まらなかった。当時、開発の主体となったのは、それまで同社でWebを担当していた社員たちだった。CGに関しては1人を除きみな門外漢だったが、「自分たちが必要とするシステムは自前で開発しよう」を合言葉に、日々、自主学習に取り組んだ。失敗や挫折を繰り返しつつも、結果的にこの社員たちの士気によって、開発コストが大幅に圧縮できるとともに、使い勝手がよくオリジナリティのあるシステムが生まれた。

こうして完成したのが「WebGL」。Webブラウザ上で3DCGをあらゆる方向から自由に閲覧できる技法の1つだ。ECサイトでは、実際の店舗と違い、顧客が商品を手に取って眺めることができないが、WebGLを使えば、リアルに近い製品選びを顧客に提供することが可能になった。

3Dモデリングには、3DCG制作ソフト、3Dスキャン、フォトグラメトリーの主に3つの手法がある。それぞれに得意、不得意があり、3DCGを制作する対象によって使い分けることができるのがエーリンクサービスの技術力となっている。また、「WebGL」はWebブラウザ上で3DCGを描画する必要があるため、制作した3DCGのデータ容量を削減する必要がある。この技術がエーリンクサービス独自の技術となっている。

WebGLによって、バッグのデザインや縫製のサンプル、自転車、スケートボードといった商品をCGで簡単に3D化。平面写真では、底や真横からの形はわからないが、このシステムでは見たい角度に自由に動かして立体的に見ることができる。また、商品を動画で見せるという手段に比べて、WebGLは、顧客が見たい所を直接自分で動かして見られるというインタラクティブ性がある。しかも、商品の色やパーツを簡単に変更できるため、顧客が要望に合わせてどんどん完成商品をシミュレートできる。素材情報のデータベースと連動することで、パーツを変更した場合の商品価格の違いも一目でわかるようになった。

このシステムの導入により、顧客に対して商品やデザインのより細やかな説明が容易となった。またサンプル製作のコストをかけず、出来上がりをイメージできるため、コミュニケ―ションの質と時間効率が劇的に上がった。これにとどまらず、Web上で売上管理できるシステムも自社で開発するなどして、多品種の小ロット生産や納期の短縮を実現した。

高い3DCG技術を一般企業にも提供。

同社は次のステップとして、2022年2月に福井県内で初めて「3D space」の提供を開始した。これは米国の企業が開発したシステムで、360度カメラを使い現実空間をウェブに再構築した3D仮想空間内において自由に移動体験ができるサービス。仮想空間上の店舗や商品にテキスト、画像、動画、外部リンクを埋め込むことができ、ショッピングやショールーム見学などへの活用が可能だ。この仮想空間に、同社の強みであるWebGL技術やVR撮影技術を組み合わせることで、低コストでVR空間の製作が実現できる。

現在、大手自動車メーカーなど、巨額な投資によって3DCGシステムを導入し販促に活用する大企業が増えている。しかし、「エーリンクサービス」が目指すのは、中小企業が自社のECサイトに低コストで導入できるサービスの提供だ。「CGのユニクロ化」を掲げる山本社長が指す、大きな一手である。

今後の展望

開発費用として投資した金額は、今後1、2年での回収を目指している。東京から大きな案件の契約も取れていることもあり、さらなる拡販のため、東京に営業所を開設した。ECサイトに3DCGを導入している中小企業は日本ではまだ少なく、認知度も低い。まずは我が社のサービスを、もっと知ってもらうことに尽力したい。

代表取締役 山本 禎久 氏

取り組みにかかったコスト

コスト 非公開

会社概要

事業所名

株式会社エーリンクサービス

代表者

代表取締役 山本禎久氏

所在地

鯖江市吉谷町16-52-1

従業員数

55人

業種

日本製バッグの製造・販売 日本製生地を使った商品の開発・製造・販売 紙袋の企画・製造、輸入、販売 CG・Webデザイン、システムの開発
ベトナム・ホーチミンに関連会社

その他の事例集

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