自社開発でものづくりDXに挑む「T-smartプロジェクト」

繊維の染色や機能を付加する加工技術で衣料をはじめ、工業や農業、医療など幅広い分野で活躍する東洋染工株式会社。同社は業務のIoT化を推進する「T-smartプロジェクト」を立ち上げました。ICT・IoTを推進した古木雄二郎氏にプロジェクト立ち上げの経緯や成果について伺いました。

ポイント

  • 1外部ベンダーを使わず自社開発でデジタル化を推進

  • 2システム開発の人員は、現場を知る社員から希望者を募り育成

  • 3効果を実感した現場から要望が増え、システム開発の投資が活発に

DX人材の育成と業務のデジタル化を推進するプロジェクトがスタート

同社はDXへの挑戦をテーマに、2018年から「T-smartプロジェクト」に取り組んでいます。IoTによる生産性の向上、ICT技術の高度化、環境負荷の軽減を目指すこのプロジェクトの発足は、生産状況の見える化という課題がきっかけでした。同社の設備は数十年以上使用している機械が多く、デジタル化にはIoTシステムの構築が欠かせませんでした。そこで、プログラムの知識があった加工部部長(当時)の古木氏をリーダーにICT・IoT企画推進部を新設し、システムの自社開発とそのための人材育成を目指しました。

社内に「IoT道場」を設け、人材育成と完全内製化を実現

社内にシステム開発の経験者はいませんでしたが、「まっさらだからこそ素直に吸収し、現場の知識と上手く結びつける可能性に期待した」と語る古木氏。自身もシステム構築に従事しながら勉強を続け、参加を希望した工場の主任クラス4名の教育に取り組みました。
 プロジェクトメンバーは工場の業務と兼務のため、仕事を調整して社内講習会「IoT道場」を実施。基礎から技術を習得しました。少しずつ経験を積みながら約3年で独り立ちし、現在は工場の要望をくみ取りながら各自の課題解決に向けてIoT化を進めています。
「現場をよく分かっている社員だからこそ、ピタリとはまるシステムを作れる」という古木氏が手掛けた色々な工程の困りごとを解決するためのシステムは、工場の生産性を押し上げ毎年20%以上の売上増を実現。メンバーの1人が開発した生地の重量測定を自動化するシステムも、手作業の計算による手間やミスがなくなり、「仕事が楽になった」と喜ばれています。効果を実感した現場からは、もっと改善したいという要望や提案が出るようになり、プロジェクトへの投資が年々増加しています。

解反後に芯の重量を計って生地の重さを計算機で算出していた作業をIoTで自動化

DXの取組みを通じ社員の意識も変化

同社はプロジェクトのさらなる推進のため、新卒SE枠の採用も始めました。次のステップとして古木氏が考えているのは、自身が育てた4人のメンバーに人材を育てる役割を担ってもらうことです。古木氏も「人に教えることで成長できた」と振り返り、プロジェクトのさらなる成果を目指してメンバーのさらなるスキルアップに尽力。人材の層が厚みを増すことで自社開発のスピードと品質を高め、既存のシステムの修正やアップデートにもきめ細かく対応していきます。
 最後に古木氏は「製造業の人手不足は人口減少でさらに深刻になると予測されるため、現場とIoTを上手につなぐ“楽ちん化”は、年齢や性別を問わずに働ける環境づくりのスピードを速めることにつながります。社員みんなが負担なく生産性を高める現場づくりを自分事としてとらえ、自らの発想と行動で変えていく。そんな雰囲気を醸成するきっかけになったのも、プロジェクトが起こした変化だと言えます」と話します。

今後の展望

プロジェクト発足から5年、開発したシステムによって毎年売上が増加しており、IoT化が成長の鍵になっているのは明確です。今後は工場の暑さ対策などの環境の改善や事務の効率化はもちろん、エネルギーや水資源の削減活動を通してSDGsを推進し、環境にやさしい生産体制を付加価値にすることを目指しています。会社としても増えた利益を福利厚生の充実等で社員に還元する方針なので、チーム全員で現場の声に応える楽ちん化を追求する所存です。(取材者:情報戦略部 古木雄二郎氏)

海外勤務時に最新設備に触れ、デジタル技術の可能性を感じたという古木氏

取り組みにかかったコスト

コスト 非公開

相談先

相談先 自社開発

会社概要

社名

東洋染工株式会社

代表者

山本隆英

所在地

坂井市春江町田端43-15

従業員数

259名

取扱品目

各種繊維品の染色機能加工、 コーティング加工

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