酒米の水田の水管理を自動化したことで、日本酒の品質も向上

地元永平寺町で栽培した酒米だけを使って日本酒を醸造し、自社でも酒米を育てている吉田酒造。広いエリアに点在する自社水田の水管理を遠隔で自動化する装置を導入し、作業の効率化を図りました。また夏場の水温管理を適切にできるようになったことで、内部がひび割れる「胴割米」の割合が導入初年度から大幅に減少し、日本酒の品質向上にも結びついています。

ポイント

  • 1点在する自社水田の水位や水温を、遠隔で自動的に管理し農作業を効率化

  • 2適切な水温管理で夏期の高温障害を予防し、酒米の品質が大幅に向上

  • 3水温などのデータを水田ごとに蓄積し、より「テロワール」を強調した商品開発を目指す

点在する水田の水位や水温を遠隔で管理

ブラウザ上で、水位や水温、水門の開閉が管理できる

吉田酒造は1806(文化3)年に創業した日本酒の醸造元。土地に根差し、風土を生かした酒造りの方針として「永平寺テロワール」を掲げ、自社周辺の水田で九頭竜川の水で酒米を作り、同じ水源の伏流水で醸造しています。

2022(令和4)年時点で8haに山田錦を作付けし、半分を自社で栽培、半分を地元生産組合に栽培を委託しています。約4haの自社水田は本社から半径2kmの範囲に分散しているので、夏期の高温障害を予防するための、早朝の水管理を一斉に行う際に大きな手間を伴っていました。

そこで同年2月に、水田の水位や水温を遠隔でモニタリングして、自動で水門やバルブを開閉できる水管理システムを自社水田のうち6haに設置しました。

適切な水温管理で、胴割れ米の比率が大幅に減少

酒米を育てる農作業風景

導入に当たっては、(公財)ふくい産業支援センターの令和3年度「IoT・AI・ロボット等導入促進事業補助金」の採択を受け、「IoTによる酒米圃場の水管理で品質の安定・向上を目指す事業」として実施しました。

水田に取水する水門やバルブにセンサーを取り付け、水の状態は無線で本社に置いた基地局に送信されます。その情報はスマートフォンやパソコンなどのブラウザ上で把握でき、水位や水温を調節したい場合も、ブラウザ上で操作して水門やバルブを開閉できます。

自動車で水田を回って状態を確認したり作業したりする手間がなくなるとともに、夏期には早朝に冷たい水を、全ての水田へ同時に入れることができるようになり、収穫した米の品質は大幅に向上。これまで10%程度だった酒米の胴割れ率が3%にまで低減されました。

高品質な酒米により、日本酒の品質も高まる

自社栽培の酒米から麹づくり

胴割れ米が減ったことは、醸造する日本酒の品質の向上にも貢献しました。吉田酒造では、麹も全量を手造りしていますが、胴割れがないことで発酵時に安定してよい成績が得られるようになりました。

醸造工程で進めてきた、通年で低温醸造できるサーマルタンクや、麹の温度を自動で監視・記録できる製麹温度制御システムなど技術革新との相乗効果でさらなる品質向上と、より付加価値の高い酒づくりに取り組んでいくための体制が強化されました。

このほか、同じくITを活用した取組み策としては、コロナ禍で開催できなかった「酒蔵まつり」の代替策として、酒蔵の様子を動画でオンライン生配信し、自社製品のファンとの交流の機会を確保してきました。

今後の展望

取材者の役職、氏名:取締役(製造部門兼農事部門長) 吉田 大貴 氏

水田の状態をモニタリングしたデータを今後も継続的に蓄積していくとともに、地質の研究者との協働で水田の土壌を調査する取組みも計画しています。私たちの水田の特色を科学的、定量的に把握して、栽培成績の向上につなげていきます。特に品質のよい米が収穫できる水田については、その酒米だけを用いて、より「テロワール」の個性を際立たせた日本酒の商品化も目指し、米作りから自社で行う酒造りの強みをブランド力の向上に役立てます。

取組みにかかったコスト

コスト 500万円

相談先・業務委託先

相談先 (公財)ふくい産業支援センター
(令和3年度IoT・AI・ロボット等導入促進事業補助金を活用)

会社概要

社名

吉田酒造株式会社

代表者

代表取締役社長  吉田  由香里

所在地

永平寺町北島7-22

従業員数

15

業種

清酒「白龍」「游」「DRAGONKISS」製造及び小売

その他の事例集

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