ポイント
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1ベテラン社員1人の負担になっていた倉庫の情報を見える化して共有
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2システム導入と合わせて5Sやルール化を実施し、倉庫を有効活用
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3現場のデータを改善に活かすため、若手人材によるDX委員会を立ち上げ
倉庫のリアルタイム状況と入庫予定はベテラン担当者の頭の中

同社は、5年前に生産管理システムを導入していましたが、原糸を保管する倉庫は紙やホワイトボードによる管理が続いていました。しかし、紙やホワイトボードには最新の情報が記載されていないことも多く、倉庫担当のベテラン社員1人だけが倉庫の正確な情報を把握している状況が続いていました。そのため、その担当者が倉庫に関する問い合わせに多くの時間を取られていたり、担当者不在の時には倉庫の状況が分からないという課題が生じていました。
この状況を改善するため、必要な人が必要な時に倉庫の最新情報にアクセスできる環境を目指しました。経編事業部門長の山本氏は、「在庫確認や入出庫作業にかかる時間の削減はもちろん、情報の伝達漏れや遅延、伝票の重複などのヒューマンエラーを防ぐためにも、生産管理システムと連携できる倉庫管理システムが必要でした」と振り返ります。
会社全体の業務を見直しから、あるべき倉庫管理の手法を考える

倉庫管理では、「何が、どこに、どれだけあるのかを見える化する」「原糸の先入れ先出しを徹底する」「問題発生時に追跡しやすくする」ことを重視しました。そのため、倉庫管理システムでは、棚の区画ごとの情報を画面に表示するロケーション管理を採用しました。原糸の保管場所や在庫量をリアルタイムで確認できるほか、入庫日や生産月、ロット番号などの情報もデータ化し、原糸情報から検索できるようにしました。
経編事業部の冨田氏は、「倉庫管理と生産管理を一元化することで、購買担当は原糸の発注タイミングや発注量を適正化し、工場では原糸の正確な入庫予定と在庫量をもとに生産計画を立てられる、ジャストインタイム方式の体制が作れると考えています」と構想を語りました。営業面でも納期回答がスムーズになり、倉庫管理の取組みが同社の事業全体のレベルアップに貢献しています。
30%以上の在庫圧縮に成功し、現場改善の取組みにもつながる

2024年1月に倉庫管理システムを導入してからは、タブレットから日付、原糸の種類、場所を選択するだけで情報登録ができ、事前に入庫場所の予約も可能になりました。システムで在庫状況や入庫予定をすぐに確認できるため、物を探したり担当者に確認したりする手間がなくなり、倉庫でのやり取りにかかる時間が大幅に減少しました。適切な受発注のタイミングも把握しやすくなり、システム導入以前と比べて50~70%程度の在庫圧縮が実現しました。また、入出庫業務が簡素化され、記録ミスも減少しました。
さらに、同社ではシステム導入と合わせて現場改善にも取り組みました。具体的には、5Sを実施して倉庫スペースの有効活用を図りました。システムには原糸以外の荷物も表示されるため、不要な物は処分しスペースを空ける意識が高まりました。一度に大量の原糸を入庫する場合でも、余裕を持って対応できるようになりました。
新しい業務手順の定着という課題と若手主導のDX委員会

倉庫管理システムの導入や現場改善の取り組みは効果を上げているものの、新しい業務手順の定着には課題も残っています。山本氏は、「まだ入力を後回しにする意識が残っているため、タイムラグを防ぐためには現場の声を聞きながら運用方法の手順を改善し、定着させる必要があります」と語ります。
また、同社では若手主導のDX委員会を2024年に立ち上げました。デジタル技術に強い社員や新しいアイデアを持つ若手社員が集まり、データ分析を通じて課題解決策を考える場となっています。DX委員会のメンバーでもある冨田氏は、「お客様にも生産効率を上げる受発注方法を提案し、当社の協力会社も含めて広い視野で効率を上げていきたい」と展望を述べています。また、両氏は「社内で自作できるシステムと現状のシステムを組み合わせ、業務をさらに見える化することで、社員視点の意識改革や業務改革を進めていきたい」と意気込みを語ります。
専門家(ITコーディネータ)から一言
倉庫管理システムの導入を契機に、自社全体の業務の流れを見直し、DXに取り組んでいる好事例です。システムは導入すればすぐに効果が出るわけではなく、業務やルールの見直しとあわせて行うことで効果が実感できるものです。また、システム化によって得られたデータを分析し、単にデータを取るだけでなく、しっかりと活用できている点も大きなポイントです。取組みの方向性や姿勢をぜひ参考にしてください。
取り組みにかかったコスト
コスト | 900万円(補助金400万円含む) |
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相談先
相談先・活用施策 | ふくい産業支援センター(ふくいDX加速化補助金) |
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お話を伺った方(役職・氏名)
お話を伺った方(役職・氏名) | 取締役 経編事業部門長 山本 憲郎 氏(右)
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会社概要

事業者名 | 冨士経編株式会社 |
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代表者 | 平木 弘史 |
所在地(住所) | 福井県鯖江市上河端町5-1-6 |
従業員数 | 47名 |
事業内容 | リネンサプライ用商品、生地の製造・販売 |
白衣やユニフォーム用の経編(ニット)生地を主軸に、高品質なテキスタイルの生産に取り組んでいます。自社製品の企画・販売にも力を入れており、シニア世代のためのケアウェア「mille vies」が2022年度のグッドデザイン賞でBEST100およびグッドフォーカス賞を受賞しました。