若手社員のシステム自作でデータに基づく見積や製作へ

ポイント

  • 1工数や粗利をデータで見える化し、作業者が目標を意識して作業

  • 2若手社員によるシステムの自作で、迅速な導入と改善を実現

  • 3社員ごとの工数データを、作業者教育や人事評価にも活用

過去の類似案件の情報を効率的に活用できていなかった

 同社は、主に鉄鋼製品の小ロット多品種生産を得意とし、顧客のニーズに柔軟に対応したオーダーメイド制作を多数手がけています。約5年前、タスク管理ツール「Trello」を導入し、案件ごとの進捗は把握できていたものの、注文書・納品書・作業日報は紙で管理していたため、過去の案件情報を探すのに不便という課題がありました。

 代表取締役社長の田安氏は、「オーダーメイドは毎回ほぼ初めての製作になりますが、過去の類似案件の振返りは重要です。当時は個人の記憶頼りで、データがうまく蓄積・活用されていないのはもったいないと感じていました」と振り返ります。

 従来の記録方法では、案件ごとの工数や材料費などの詳細が見えづらく、利益状況や見積時の工数が適正かどうか不明瞭だったため、まずは作業日報のデジタル化に着手しました。

 

若手社員の活躍で使いやすい作業日報アプリが実現

 担当者には、私生活でも自作アプリを作成・活用している若手社員の大江氏を起用しました。大江氏は「当初は大手の業務アプリ作成サービスを利用しましたが、検索やデータ処理速度が遅く、自社の業務に合わなかったため導入には至りませんでした」と振り返ります。

 この取組みの過程で、ふくい産業支援センターが実施する「ふくいDX経営塾」と「伴走型DX推進プロジェクト」も活用しました。特に伴走型DX推進プロジェクトで専門家の支援を受け、Googleのアプリ開発サービス「Google Apps Script」を活用して作業日報アプリを構築しました。

 アプリはブラウザベースで、入力・送信された内容はGoogleスプレッドシートに集約される仕様です。大江氏は「専門家のアドバイスを受けながらアプリを修正・試作できたのが心強かったです」と成功の秘訣を語ります。また、プログラミングには生成AIのChatGPTも活用し、数日でアプリが完成、着手から約1ヵ月で本格運用に至りました。

社員の工数・粗利への意識の変化とデータによる適切な人事評価

 作業日報アプリの運用開始後は、終業時の夕礼で作業日報を入力し、全社員で現状の振返りを毎日実施しています。

 田安氏は「案件の進捗、工数、コストの振返りがしやすくなりました。案件ごとに利益率を5段階評価で表示する仕組みを導入したことで、目標工数を超過して利益が出ない案件が減少しました」と成果を強調。社員も目標工数と現状の工数を確認し、過去の類似案件を参考に工程を改善するなど、仕事の質向上への意識が高まり、これが案件評価にも反映されています。

 また、収集したデータは社員ごとの定期面談でも活用されています。田安氏は「特に新人や若手は、自分の成長をデータで実感できるため、人材育成にも役立っています」と実感しており、システム導入の効果が今後さらに明確になると期待しています。

改善で生み出した時間とお金で新規事業を目指す

 大江氏は「現在は夕礼時にデータを集計して振り返るのがメインですが、今後はTrelloからもリアルタイムでデータを集計し、目標に対する進捗率や評価をチェックできるようにしたいです」と今後の展望を語ります。さらに、他の社員からの意見を取り入れ、見える化を推進していく意気込みです。

 同社は、これまでアウトドアグッズやコンテナを活用した商業スペース、キッチンカーなどの案件も手がけてきましたが、現在は籾殻くん炭機「ヘルティー」の拡販に注力しています。これは、水稲収穫後の廃棄籾殻を炭にし、土壌改良材にする機械で、国のSDGs推進施策である「J-クレジット制度」の適用も可能です。

 田安氏は「DX推進の最大の理由は、作業の効率化と利益率の向上を図り、新規事業にかける時間と予算を捻出することです。新しい事業の柱を作るために、さらに価値あるものづくりに挑戦していきます」と、今後のDXに対する意欲を示しています。

専門家(ITコーディネータ)から一言

 同社は、これまで経営改革のためにさまざまな挑戦を続け、自社商品を持つことで会社を安定的に成長させようとしています。本事例は、経営改革を実現するためのデジタル化への取組みを示しており、目標とする経営課題を明確にした上で、デジタルツールを活用し解決策を見出している好事例です。デジタルツールの導入自体が目的ではなく、経営を変革するための手段として活用している好事例です。

取り組みにかかったコスト

コスト

数百円 数千円/月(サーバー利用料)

相談先

相談先・活用施策

(公財)ふくい産業支援センター

お話を伺った方(役職・氏名)

お話を伺った方(役職・氏名)

代表取締役社長  田安  繁晴 氏(左)・大江  氏(右)

 

会社概要

事業者名

株式会社TAYASU

代表者

田安  繁晴

所在地(住所)

福井市北楢原町13-26

従業員数

8名(パート含む)

事業内容

金属製品の加工・修理・注文制作、自社ブランド商品の開発・販売

会社紹介・取扱品目・受賞歴など:
 金属材料の知識や溶接技術を活かし、オーダーメイド製作を手がけるほか、BtoBはもちろん、Webによる個人からの製作依頼にも対応しています。自社ブランド商品の開発も行っており、バーベキューグリル「BB-CAN(バーベ缶)」、移動式石窯「炎 ~ほむら~」、籾殻くん炭製造機「ヘルティー」などを製造・販売しています。

その他の事例集

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