ポイント
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1米国との取引拡大にむけた設備導入
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2同一条件下での測定値共有によりリードタイムを短縮
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3課題は職人の技術力とデジタルデータの融合と再現化
米国市場への対応と取引拡大のための測色機導入と対応強化

同社は、国内外の大手インナーウェア・スポーツウェアブランド向けの生地を、編みから染めまで一貫して行う企業です。コロナ前は国内企業との取引が主流でしたが、コロナ後は米国が中心となり、2024年度には米国向けが全体の5割を占めるまでになりました。これは、同社が10年前から米国市場の開拓に注力してきた成果といえます。
しかし、現場では測色機の違いにより色の誤差が生じ、量産までに時間がかかる課題がありました。米国企業との取引では、指定色のサンプルを染色し、候補色を国際宅配便で郵送、先方の確認後に指示を受けて再度サンプルを作成するという手順を繰り返しており、国内取引と比べて大幅に時間がかかっていました。
輸送コストの増加も負担となる中、米国側から「同じ測色機を導入してほしい」という要望があり、ふくい産業支援センターの「ふくいDX加速化補助金」を活用して新たな測色機の導入を決定しました。
取引先とデータと精度を検証し、迅速な色確認で業務効率を向上

同社は、米国側より指定されたメーカー・機種の測色機を購入し、最初に機械間で差がないことを確認する試験を行いました。測定した色味データ(QTXファイル)をメールで送信すると同時に、従来通り染色した生地サンプルも国際宅配便で送付。その結果、機械の操作、測色データ化、メール送信、データ展開のやり取りにおいて取引先との間で問題がないことが確認され、本番使用の承認を得ることができました。
色合わせ担当社員は、「色を測る際の布の折り方や柄を避ける工夫など、細かな条件のすり合わせを行いました」と説明します。サンプルを測色し、基準となる同心円内のデータを抽出してメール送信すると、取引先は互換性のあるファイルを同じアプリケーションで開いて確認できるため、返答も迅速化しました。
目視からデジタルへの転換で、生産性向上と受注拡大の好循環

最大の成果はリードタイムの大幅な短縮です。データのやり取りで先方指定の色味との誤差を数値で明確に判定できるようになりました。染色の担当社員は、「従来は担当者の感覚に頼る目視判定が主でしたが、現在は取引先の求める色により正確に近づけることが可能となりました」と話します。現場でも色味の方向性を把握しやすくなり、より精度の高いサンプルを早く作成できるようになりました。
データでOKが出るとすぐに実際のサンプルを顧客に送り、最終確認後ただちに量産を開始できるため、平均14日必要だったリードタイムが平均7日ほどになりました。仮に修正が必要な場合でも、サンプルの郵送なしで再提案が可能となり、輸送コストも作業時間も削減することができました。また、それまでは反物をカートに載せたまま作業スペースを占有することが多かったものの、量産開始が早まり回転率が上がり、受注量の増加にもつながりました。
職人技とデジタルを融合させ、アパレルの成長分野へ進出

米国と日本では品質の要求事項が異なり、色の感じ方にも違いがあります。米国の取引先とデータを共有し、指定された色を正確に再現するためには、現場における染色方法の調整が不可欠です。機械で指定された染色のパーセンテージを調整するのは、職人の手によるもので今後の人材育成が課題です。
また、近年は環境問題への対応として、従来の染料が使用できなくなるといった課題にも直面しています。染色精度を高めるには照明環境も重要であり、サンプル生地の確認用に適切な照明器具と専用の部屋を整備しました。この取組みを確認するため、米国の取引先副社長が視察に訪れたこともあります。
鈴木氏は、「国内市場の成長が期待しにくい中、海外が主力のアウトドアやスポーツ分野への展開を視野に入れています。日本の厳しい製造基準をクリアしてきた経験があるからこそ、海外の基準にも柔軟に対応できます」と今後の展望を見据えます。
専門家(ITコーディネータ)から一言
本事例は、生地の色味というこれまでアナログな手法(職人による目視)でしか評価できないと思われていたものが、機械測定によるデータ化で顧客と共通認識を得られたという好事例です。生地の色味以外にも店舗への来客数の予測など、勘と経験でしか分からないと思われていたものが、実はデータで評価・予測できるものがあります。アナログな評価からデジタルによる評価へという視点で、ぜひ参考にしてください。
取り組みにかかったコスト
コスト | 非公開 |
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相談先
相談先・活用施策 | ふくい産業支援センター(ふくいDX加速化補助金) |
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お話を伺った方(役職・氏名)
お話を伺った方(役職・氏名) | 代表取締役社長 鈴木 博之 氏、CAP事業部 桑野 美歩 氏、CAP事業部 事業部長補佐 清水 等 氏、経編事業部 営業係長 中場 英樹 氏(右から)
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会社概要

事業者名 | アサヒマカム株式会社 |
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代表者 | 鈴木 博之 |
所在地(住所) | 坂井市春江町江留中35-3-1 |
従業員数 | 65名 |
事業内容 | インナーウェア生地製造・加工・販売 |
経編(たてあみ)と呼ばれる製法において最新鋭の編機と独自のノウハウを掛け合わせることで、自由で繊細な装飾性と高い機能性を兼ね備えた高付加価値ニット生地を開発・製造しています。編み・染め一貫体制は業界内でも稀有な存在で、これを強みとしています。