ホームページ刷新から始まった地域農業のデジタル意識変革

ポイント

  • 1新型コロナ期に目にした産直ECサイトを機に、EC活用を決意

  • 2QRコードの取得が予想より簡単だったなど、デジタルへの意識が変革

  • 3工場スタッフからもホームページのアイデアが出るなど、組織風土が変化

新型コロナによる危機感から、販売戦略の見直しを迫られる

 大野市和泉地区の特産品「九頭竜まいたけ」を生産・加工する同社は、市場への卸に加えてBtoC販路の拡大に取り組んでいました。しかし、新型コロナの流行で対面の商談会や展示会が中止され、自社工場や取引先も一時休業に追い込まれました。特に、BtoCの柱としていた道の駅での売上が顕著に落ち込み、危機感を募らせました。

 そのような中、農産物の生産者が直接商品を登録・販売できる「産直ECサイト」を知り、「わらにもすがる思いで登録しました」と統括管理部長の林氏は語ります。当初は「ネットでまいたけが売れるのか」と半信半疑でしたが、購入者の高評価レビューに励まされ、EC販売の可能性を見出したといいます。

 当時、同社のホームページはほとんど活用されておらず、年間売上はわずか50万円ほど。「支払方法も振込のみで、オンライン決済を求める問い合わせが増えていました。顧客ニーズに応えるために、ホームページのリニューアルが必要でした」と林氏は振り返ります。

新ホームページを見てもらう工夫とアクセス数などのデータを意識

 新しいホームページでは、「九頭竜まいたけ」の魅力を伝えるための商品PRに注力。動画や地元クッキングスクール監修のレシピも掲載し、見応えある構成にしました。林氏は、「商品に同梱するチラシや道の駅のポップにQRコードを入れ、サイトを見てもらえるよう工夫しています。QRコードの取得が思いのほか簡単と知り、積極的に活用しています」と語ります。

 また、QRコード活用後、アクセス数や売上が増加。「一度購入した方がギフト用に再注文してくださり、その贈り先からも注文が入るケースが増えました」とデータに基づいた分析も行っています。

 同社では、和泉地区特産の「穴馬スイートコーン」や「穴馬かぶら」も生産者から買い上げて販売。これらも期間限定の予約商品としてECサイト内で提供し、地域食材のPRにも貢献しています。

自社・顧客・地域の三方良しの取組みが評価される

 2022年1月のリニューアル以降、新しいホームページからの売上は順調に増加し、2023年度は120万円と2倍以上に伸びました。2024年度も前年度を超える勢いが続いています。新しいホームページを見た飲食店やバイヤーからの問い合わせも増え、定期購入の販路開拓にもつながっています。地域特産品の予約販売もほぼ完売し、地域生産者の安定収入にも貢献しています。

 また、これまでオンライン注文には手書きの納品書作成と郵送、払込票の作成と郵送、入金確認、記帳など事務作業が多く、約100件の注文に33時間を費やしていました。新しいホームページにオンライン決済機能を追加し、顧客の利便性向上と社員の負担軽減の両立を図りました。

 事務作業の負担がほぼゼロになり、残業が減少するなど働き方も改善。担当者が本来の業務に専念しやすくなったほか、在庫ロス対策の乾燥まいたけ生産に専念できるようになりました。こうした自社・顧客・地域の三方良しの取組みが評価され、「全国ワークスタイル変革大賞2024北陸・東海大会」で最優秀賞を受賞しました。

ホームページの成功が、デジタルに対する心理的なハードルの解消に

 新しいホームページには、デジタルツールに不慣れな社員でも簡単に更新できる「おりこうブログ」を導入。外部のサポートを活用し、分からない点は自らサポート窓口に聞くことで、自社運用を可能にしました。その結果、社内全体が情報発信に積極的になり、アクセス数やデータ分析を意識した対策を考える機会も増えています。最近では工場スタッフからも、ホームページに関する意見やアイデアが出るようになりました。

 林氏は「周囲では当たり前のことでも、デジタルに不慣れだと心理的なハードルが大きい。当社もなかなか手をつけられませんでしたが、新型コロナをきっかけに一歩踏み出したことで、社員はもっとできることがあると感じるようになりました」と話します。また、「SNS連携や販促ツール制作、業務管理の効率化など、まだまだできることが多い」と、今後のデジタル活用に意欲を見せています。

専門家(ITコーディネータ)から一言

 「株式会社昇竜」の取組みは、自社内で出来ることから始めたデジタル活用の好事例です。課題に対する解決手段にムリやムダがなく、イメージ通りの業務改善効果を出せていると思います。さらに、EC活用による顧客ニーズの発見や、ホームページのアクセスデータ解析など、行ったことに対する成果をしっかり把握して成功体験へ繋げていることで、デジタル活用の良いサイクルになっています。SNS活用など新たな挑戦に期待が持てます。

取り組みにかかったコスト

コスト

約140万円(IT導入補助金で90万円補助)

相談先

相談先・活用施策

リコージャパン株式会社

お話を伺った方(役職・氏名)

お話を伺った方(役職・氏名)

統括管理部長    孝宗

 

会社概要

事業者名

株式会社昇竜

代表者

嶋田  敏文

所在地(住所)

福井県大野市川合20-30-2

従業員数

18名

事業内容

まいたけの生産、加工、販売および農産物の加工、販売など

会社紹介・取扱品目・受賞歴など:
 大野市和泉地区の特産品「九頭竜まいたけ」「穴馬スイートコーン」、福井の伝統野菜「穴馬かぶら」の生産・加工・販売を行っています。デジタル活用による自社・顧客・地域の三方良しの取組みで、全国ワークスタイル変革大賞2024北陸・東海大会で最優秀賞を受賞しました。

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