ポイント
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1最新設備の導入とIoT活用により通年出荷できる生産体制を確立
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2収量増と食味値向上のため、赤と青の発光ダイオード(LED)を導入
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3作業負荷を軽減するため、搬送システムや移動ロボットを活用
新ハウス建設に伴い、従来の課題を解決する独自の栽培方法に挑戦

同法人は、ミディトマトなどを生産・出荷しており、2017年に整備した約6,000平方メートルのハウスに続き、2024年7月に4,050平方メートルの新ハウスと集出荷施設を建設しました。既存のハウスは構造や栽培方式が福井の気候に合わない部分も多く、新ハウス建設においてはこうした課題を解決すべく、低軒高・連棟・密閉型水冷空調式・木質ペレットによる温湯暖房を採用し、低段密植栽培に挑戦。従来の1年1作から1年3作(4区画を順次植え替え)体制に変更し、大量に必要となる苗を自家育苗するため、苗の成長に必要な環境を自動制御できる人工気象室も整備しました。
また、新ハウスではセンサーで感知した日射量に比例して、トマトの株元に灌水チューブから水や肥料を滴下するシステムも完備しました。既存のハウス同様、新ハウスにおいても遠隔でハウス内の環境を監視できる環境モニタリングシステムを設置し、年間60トンの収穫を目指しています。
収量・食味値を向上させるLED補光と、作業負荷を減らすロボット導入

新ハウスでは、既存ハウスと同様にトマトを植えたベッドの直上に青と赤の発光ダイオード(LED)を敷設し、密植による相互遮蔽の減収要因をカバーしています。朝・夕の光合成を促進するため、現在は6~20時頃までLEDによる補光を実施。LED補光と環境制御による炭酸ガス濃度の調整により、収量増と食味の引き上げを実現しています。
また、従業員の作業負荷を軽減するため、収穫作業などの際に作業者が乗ってペダル操作で移動できる低速移動ロボットや、収穫物をハウスから集出荷施設に台車で運ぶ簡易自動搬送システムを導入しました。こうした最新設備の導入に力を入れたのは、木子氏の「従業員18名中、女性が17名という職場なので、力仕事や無理な体勢での作業を極力減らして女性が働きやすい環境を整えたい」という思いからです。集出荷施設には自動ローラーコンベヤーや段ボールをテープで結ぶ自動結束機も新たに整備しています。
高品質なミディトマトの通年出荷が可能になり、コスト削減や省力化を実現

新ハウスでのミディトマト栽培では、空調効果を高める低軒高・連棟のハウス構造と、水蒸気で熱を奪う水冷方式システムにより、自然換気での栽培ができなかった7~9月の猛暑下でも出荷できるようになりました。冬期間の暖房についても、従来の灯油を使った加温器と電気によるヒートポンプに比べ、新ハウスでは木質ペレットボイラーを採用したことでハウス全体の化石燃料使用量を93%削減。暖房経費も40%削減でき、カーボンニュートラルに貢献しながらランニングコストの削減も実現しています。
栽培状況については慣行の約2.4倍となる10アールあたり5,800株の栽植密度に挑戦しながらも、適切なLED補光と炭酸ガス濃度等の管理により、以前のハウス同等以上の収穫段数を確保しています。また、簡易自動搬送システムや低速移動ロボットなどの導入により、従業員の作業負担も軽減。省力化・軽作業化が進められています。
様々な数値のモニタリングで、トマト栽培のノウハウ確立を目指す

2024年7月の新ハウス完成から半年以上が経ち、初めての収穫はほぼ予定通りの収量を記録しました。しかし、それ以降は果実が大きくならないといった現象もあり、初年度の収量は約20トン(6~12月実績、通年換算で約40トン)を見込んでいます。木子氏は、「ハウスの構造や栽培方式に合う品種は何か、日射量に応じてどのくらいの水や肥料を与えればいいか、一つひとつ試行錯誤しながら進めています」と話します。すでに対策を考えているとのことで、2年目の収穫増に期待が高まります。
一方、さらなる収量・食味の向上や省力化に向け、これまで属人的だったトマト栽培のノウハウを標準化することも課題のひとつです。木子氏は、「様々な条件下での機械の設定数値や作業記録などをモニタリングし、効率的な生産に活かしたいですね。また、トマトの収穫時期を一目で判断できるシステムなど、AIを活用して農業のDXを推進していけたら」と話し、独自の生産体制確立に向け今後も挑戦が続きます。
専門家(ITコーディネータ)から一言
本事例のトマト生産のDXの取組みは、2017年からIoTやロボットを活用して効率的なトマト栽培のスマート農業を実現した。この実績を踏まえ、2024年から雪の降る気候に合うトマト栽培にチャレンジし、LED照明やパレット暖房を取り入れ、スマート農業をレベルアップした。今後、蓄積した気候や栽培等のデータ活用やAI活用によってスマート農業の最適化を目指す考えと推測する。その時々の課題解決にDXを駆使して取り組み、さらに将来の発展に向けてDX活用を見据えているDX活用の事例と言える。
取り組みにかかったコスト
コスト | 3億7110万円(国・県・町の補助金含む) |
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相談先
相談先・活用施策 | 敦賀信用金庫、日本政策金融公庫 福井支店 |
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お話を伺った方(役職・氏名)
お話を伺った方(役職・氏名) | 代表取締役 木子 博文 氏
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会社概要

事業者名 | 株式会社 無限大 |
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代表者 | 木子 博文 |
所在地(住所) | 三方郡美浜町興道寺40-8 |
従業員数 | 18名 |
事業内容 | 農産物(黒豆の枝豆、ミディトマト、ミニトマト、コメ、牧草)の生産販売 |
「人と社会に感動と影響を与える事業の展開」を目指し、創造と挑戦を続ける農業生産法人です。トマト「赤い鈴」をはじめ、こだわりの農産物を生産出荷しています。2017年には最先端のハウス栽培設備を備えた「Tomato LABO Fairy Bell」を開設し、2021年度農業電化推進コンクールでは最高位の農林水産省生産局長賞(大賞)を受賞しました。