デジタル技術を活用した、印鑑文化の新たな価値創造

ポイント

  • 1複数のサイトの受注データを一元管理するデータベースシステムを構築

  • 2紙のデータ保管や煩雑な確認がなくなり、業務が効率化

  • 3データをAI分析してマーケティングに生かし、新規事業の売上を3倍に

のべ9万件以上の顧客情報を最大限に活用できる管理体制に

 実店舗とインターネットショップで印鑑を販売する小林大伸堂は、ネット通販が売上の9割を占めており、顧客情報はのべ9万件を超えます。しかし、顧客管理ソフトやメール、入金管理など、各システムがバラバラに運用されており、業務が煩雑な上に、必要な情報を十分に活用できていないことが悩みでした。

同社では複数のネットショップを運営しており、データがサイトごとに管理され、会社全体での顧客管理やデータ分析も難しい状況でした。さらに、保管する印影は紙ベースだったため、デジタルデータと紐づいておらず、過去の注文から印影の情報を探すのに大きな手間がかかっていました。

「豊富なデータを顧客管理やデータ分析、マーケティングなどに活用し、リピーターにつなげられていないのは大きな課題」と感じていた小林照明社長。しかし、自社サイトが増え続ける状況でシステムの統合や修正を行うのは難しく、一元管理の構想は持っていたものの、なかなか着手できなかったと振り返ります。

「守りのDX」で、自社の強みに集中するための環境を整備

 そこで同社は、ふくい産業支援センターの専門家派遣事業を利用し、一元管理システムの構築を目指して業務を見直し、課題の整理を行いました。

「私たちは、お客様の想いなどの多くの情報をいただき、それを反映した印鑑を手作業で制作しています。そのため、お客様への対応やサービスの向上、商品づくりにかける時間により集中するための『守りのDX』を目指しました」と語る小林社長。

新システムは、サイトごとに異なっていた情報入力フォームを統一し、情報はすべてデータベース「しるし蔵」に格納してクラウド上で一元管理できる仕組みに。受注から制作、発送までの過程を見える化し、一部のリモート勤務を可能にすることで、作業の効率化はもちろん、社員の働き方に柔軟に対応する体制を整えました。また、「しるし蔵」には、顧客の情報や注文内容、印影データのほか、印鑑に込めた想いも細かく記録され、AI分析によるマーケティングや商品開発にも活用できるようになっています。

デジタルを「想いの共有」に変え、新規事業の売上を3倍に

 同社が「しるし蔵」を開発した時期はコロナ禍の真っただ中。印鑑が不要という風潮が起き始める中、小林稔明常務は「これまでの印鑑とは違う価値観や使い方を提案できないか」と考え、同時進行で新規事業「しるし結び」を立ち上げました。

「しるし結び」は、二人の名前をひとつにした印影を作成し、ロゴマークのようにさまざまなアイテムに刻印するというサービス。「お客様の想いをもとに職人が刻印するという当社の強みと、お二人の想いや結びつきを形にしたいというニーズを研ぎ澄ませました」と語る小林常務。同社が再定義した「想いを刻む文化を更新する」というビジョンを象徴するブランドです。

 「DX化を機に理念を作り直したのは、全員が同じ想いを持ち、自立した仕事に取り組むチームを作るという思いもありました」と語る小林常務。環境の変化が社員の刺激となり、デジタル技術を活用したプロモーションや顧客対応に力を注いだ結果、「しるし結び」の売上は2022年からの2年間で約3倍へと急成長しました。

「しるし蔵」を通じて築く、顧客との新しいつながり

 「しるし蔵」の構築で苦労したのは、サイトごとに異なる書式の統一作業でした。細かな言い回しの違いを揃えるのが大変だったので、「しるし蔵」にはキーワードを選択するフローを取り入れ、データの整理や分析を容易にしました。

 同社の社員は女性が多く、9割が出産・子育て経験者のため、お客様の想いの理解や共感が対応力の高さにつながっています。そのため、小林社長も常務も「DX化で変化した意識や働きやすさが社員の成長を促し、今後のブランドをさらに発展させる力になってほしい」と期待を寄せています。

 また、「しるし蔵」のさらなる活用について小林社長は、「いずれは『しるし蔵』の中にお客様ごとの部屋を作り、情報をいつでも見られるようにしたい」と構想を語ります。常務も、データを活用して節目ごとに商品を提案し、お客様とより深く、長くつながる関係づくりに力を注ぎ、「印鑑の強い固定概念を崩し、新しい価値観を生み出すことに挑戦していきたい」と力を込めます。

専門家(ITコーディネータ)から一言

組織に散在していた顧客データをまとめ共有し、受注後の作業などを効率化し、顧客との対話に時間をあてる。ここにとどまらず、その成果を新しいサービスに繋げていく。その背景にはモノを売るのではなく、お客様の想いを形にするのだという理念がありました。「はんこ」は身近ゆえにその使い方などイメージが固定化されがちです。本事業ではあるべき姿を見つめ直すことで差別化、高付加価値化を達成させる好事例であると思います。

取り組みにかかったコスト

コスト

システム開発費用 600万円(ふくいDX加速化補助金300万円を含む)

相談先

相談先・活用施策

公益財団法人ふくい産業支援センター(DX専門家派遣事業、「シン・ものづくり企業」のためのデジタル変革応援事業、ふくいDX加速化補助金)

お話を伺った方(役職・氏名)

お話を伺った方(役職・氏名)

(右)代表取締役 小林照明氏、(左)常務取締役 小林稔明氏

 

 

会社概要

事業者名

株式会社 小林大伸堂

代表者

小林照明

所在地(住所)

鯖江市水落町2-28-29

従業員数

12

事業内容

実店舗およびネットショップによる印鑑の製造・販売

会社紹介・取扱品目・受賞歴など:
開運印鑑、宝石印鑑「ROSeSTONE」、ふたりの名前を一つにする“想いのかたち”を刻む「しるし結び」、我が子の命名の思いを贈るギフト「こまもり箱」など、印鑑=自分だけの「しるし」を通して、想いを込める文化を伝えています。

その他の事例集

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