ポイント
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1Googleのツールを活用した低コストかつ効果的なDXを実践
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2作業状況の見える化によって現場の判断や行動力が向上
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3ベビーリーフの収穫面積がハウス増設なしで約1.5倍に
外国人スタッフとのミスコミュニケーションの解消へ
農園たやでは2008年からインドネシア人労働者を受け入れ、現在は農業分野の従業員の半数以上を占めています。課題となったのは、日本語での会話による情報伝達の限界。ミスコミュニケーションによる時間や労力のロスが業務に響いていたといいます。
「方言や業界用語が入ると日本語の理解が追いつかず、間違えたくないという思いから指示待ちになりがちでした。マネジメント側の負担も大きく、人材育成の面でも惜しいと感じていました」と語る田谷代表。分散する圃場を行き来しながら作業の確認や指示出しを行う体制や、栽培品目のリーダーごとにやり方が異なる状況も加わり、非効率な運営になっていたと振り返ります。また、業務面だけでなく、ゴミ出しなどのルールの周知や外免切替など、生活面でのサポートも必要だと感じていたそうです。
さらに、平成30年福井豪雪のハウス倒壊被害の影響から十分に立ち直れない中で新型コロナに突入。田谷代表は抜本的な経営改革を目指し、デジタルツールを活用したソフト面からの業務改善に着手しました。
世界共通のデジタルツールを通じて、同じ目線、同じ理解に立てる環境に
同社ではGoogleのツールを駆使し、スマートフォンから報告や確認、情報共有ができる作業用ポータルサイトを構築。カレンダーから日々の作業内容が確認でき、作業が終わると業務報告アプリで入力する仕組みとしています。入力内容も作業を10工程に分け、漢字が書けなくても「読むこと」と「意味を覚えること」だけで対応できるようにしました。業務報告の一覧表はハウス番号順ではなく作業順に表示することで、全体の状況を見える化。工程ごとの作業時間を集計し、課題を分析できる機能も加えました。
コミュニケーションの課題については、発話から文書中心にシフト。業務改善報告書のページにはGoogle翻訳の関数を入れてインドネシア語と日本語を相互に翻訳し、正確な情報共有や積極的な提案を促すことで業務改善を推進する環境を整えました。
自治体ごとに異なるルールや必要な情報も、翻訳ツールを使って自由に母国語で閲覧できるように。外免切替の学科試験対策も、460問の練習問題を入れた自社アプリを提供し、合格をサポートしています。
現場のモチベーションが上がり、残業ゼロで収穫面積は1.5倍に
アプリ導入によって栽培品目や作業ごとのコスト構成がデータ化され、栽培品目の整理や作業の効率化を進めやすくなりました。業務改善報告もAIで分析した結果をいかし、課題の洗い出しや対策の検討、教育ツールへの展開など、活用の幅を広げています。
「以前は種まきの日なのに事前の作業が終わっていないといったトラブルも多かったですが、現在はほとんど起きていません。逆に、次の作業を済ませたいと要望されることもあります。データを見て週単位で仕事を調整し、現場が自主的に動く体制に変わりました」と語る田谷代表。主力のベビーリーフの収穫面積は、4万5000㎡から6万5000㎡に増加。現場の段取り力が高まったことで栽培の回転率が上がり、繁忙期でも残業ゼロを実現しています。
外免切替試験対策のアプリも得点ランキングが励みとなり、福井県の合格率が平均2割のところ、アプリ利用者の合格率は5割以上という結果に。運転免許の取得は、仕事はもちろん、プライベートの充実にもつながり、モチベーション向上にも寄与しています。
外国人材の成長をサポートし、能力を発揮できる体制をさらに充実
大雪やコロナの影響で投資が難しい状況下で、業務のマネジメント改革に着目し、効率化と人材育成を両立するDXを形にした同社。田谷代表は「デジタルツールを通じて同じ目線、同じ理解に立つことができるDXは、外国人材と親和性が高い」と実感しています。2025年には、農業経営の改善や農村地域の活性化に貢献した農業者や団体を表彰する「日本農業賞」の個人経営の部で大賞を受賞。農業DXのロールモデルの一つとしても注目されています。
同社ではインドネシア人実習生に向けたビジネスプラン策定支援ツールを自社で開発しており、今後は入力をさらに簡易化し、スマートフォンに最適化した形へとバージョンアップする予定。将来的にはAIを組み込み、蓄積したデータから最適な提案が行える仕組みも視野に入れています。「DXによって不安や分かりにくさを解消していくことで、社員が本来の力を発揮して成長していく支えになりたい」と語る田谷代表。外国の優秀な人材を受け入れ、育成し、農業に新たな変革を起こしていきたいと意気込みます。
専門家(ITコーディネータ)から一言
年間約3万円のGoogle Workspaceや生成AIツールを活用し、外国人材との言語・文化障壁を「仕組み」で解消。収穫面積を44%増加させた、投資対効果が非常に優れた事例。作業報告と時間単価の徹底的な可視化により現場の自律性を引き出し、残業ゼロを実現したことによりワークライフバランスも確立。メンター制度と業務改善報告で提案文化を醸成し、高額投資に頼らず内製化で経営改善と人材育成を一体設計した、農業DXの模範的取組みである。
取り組みにかかったコスト
| コスト | 年間約3万円(Google法人アカウント使用料) |
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相談先
| 相談先・活用施策 | ふくい産業支援センター(ふくいDX経営塾、DX専門家派遣事業) |
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お話を伺った方(役職・氏名)
| お話を伺った方(役職・氏名) | 田谷徹代表(右側)
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会社概要
| 事業者名 | 株式会社 農園たや |
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| 代表者 | 田谷徹 |
| 所在地(住所) | 福井県福井市高屋町42-87-2 |
| 従業員数 | 20名 |
| 事業内容 | ハウス、露地での野菜栽培 |
ベビーリーフをはじめ、年間を通じて17種類の野菜を栽培。インドネシア人材との協働の経験を活かし、インドネシア農業省と共同で優秀な人材と福井の農家の架け橋となる仕組みを作り、農業現場を支える事業も展開している。先述の仕組みづくりが評価され、日本農業賞個別経営の部で県内の初の大賞を受賞されています。
