ポイント
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1安全第一のロボット農機導入と、教育訓練休暇制度による人材育成
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2精度向上による収益増と、利用者のモチベーションが向上
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3だれもができる作業マニュアル作成・共有、社会参画につなげる
自然への脅威にスマート農業×農福連携で立ち向かう
同社では水稲を軸に、そば、大豆やさつま芋、さらにはイチゴやメロンといった施設園芸から、あんぽ柿などの農産加工・販売まで幅広く事業を展開しています 。作業受託を含めると耕作面積は100haを超え、職員に加え就労継続支援A型事業所「(株)農楽里」から施設外就労で17名の障がい者(以下、利用者)が働いています。
当初は多品目栽培をしており、利用者ができる仕事が少ない一方で、職員が多忙を極め休日もままならず、経営的にも大きな負債を抱えていました。また、農業は自然環境や災害の影響をダイレクトに受けるため、収量の変動が起きやすく収入も不安定になりがちでした。こうした経営課題と環境の変化に向き合うため、農産物の品目を整理して収量と品質を向上させること、消費者が求める「高品質な農産物の安定供給」を目標に掲げました。そこで科学やテクノロジー、AIを活用したスマート農業に取り組むことを決めました。
「効率よりも安全」を重視し、テクノロジーを活用する
同社では2018年にKSAS(情報通信技術)、ドローンを導入、2020年に乾燥調製施設、低温倉庫を新設、2022年にロボット田植え機、アシスト付きコンバインを導入しました。農業機械は、障害物を検知した時や、圃場の逸脱時に自動運転を停止するセーフティ・ストップ機能を実装した機材を選定し、効率よりも利用者の安全性を第一に意識しています。
具体的な取組みの第一歩はドローンの導入でした。ヘリ防除は高額で散布スケジュールの調整も難しく、ヘリが利用できない場合の作業は動噴を担いで歩くため危険でした。この業務改善に取り組むため、まずは職員がドローンの操縦資格を取得し、ドローン防除に切り替えることで安定した作業環境の獲得および低高度からの高精度な散布が可能となりました。
ソフト面の人材育成にも力を入れ、2019年には「教育訓練休暇制度」を創設し、業務に必要な免許や資格取得を会社側が支援しています。技術習得にあたっては、利用者とともにメーカー講習や現場での実践研修を重視することで、体に操作方法をしみこませ、その後、取扱説明書等で技術を取得しています。
作業の爽快感でモチベーションが向上、収量アップという手ごたえも実感
スマート農業の実現によって作業精度が大幅に向上しました。ロボット田植え機はだれが作業しても誤差が少なく一直線のきれいな苗植えになるため肥料効果や風通しが良くなり、病害虫に強く養分吸収効率の高い作物が育ち収量アップに繋がっています。実証試験では、初年度こそ作業時間を要したものの、「障害の有無ではなく経験の差」と同社は解析し、2年目には利用者が難なく操作する姿が見られ、効率を落とさず生産性向上を実現しました。かつて職員が行っていた精米作業も小口精米ユニットを導入することで、利用者が原料(玄米)搬入から検品・計量・袋詰めまでを一貫して担っています。
スマート農業による田植作業では、利用者から「最初は緊張したが、きれいに定植されていく苗を見ると爽快」といった自信と楽しさあふれる声が聞かれました。モチベーションの向上や一般就労につながる利用者も現れるなど、福祉面でも成果を上げています。
作業の見える化で、だれもが迷わず作業できる環境を構築する
同社は今後、どのような特性を持つ利用者も同じ成果が出せる環境づくりに取り組みます。具体的には、作業工程を分割、マニュアル化し、冊子や動画にまとめてウェブサイトで公開することで、自社の事例をモデルケースとして農福連携の拡大を図ります。一方でスマート農業は高価で、一部の故障がシステム全体の入れ替え等のコスト面のリスクはあるため、計画的な運用を継続していくことが必要と考えられています。
また、身近なところでは発送作業のさらなる効率化に取り組む予定です。段ボールの組み立てから、チラシの封入、送り状の貼付といった一連の工程を見直し、利用者が迷わず作業できる仕組みの構築を行う予定です。実現すると、作業時間の1~2割の効率化が見込まれます。
同社では「作業効率だけではなく消費者が求める市場ニーズと安心感、食の鮮度と品質があってこそ」と考え、環境負荷を低減する自然に優しい農業を実践しながら、ふるさと納税などを通じた地域貢献にも注力しています。テクノロジーで障壁を取り除き、利用者の作業領域を拡大して社会参画にもつなげていきます。
専門家(ITコーディネータ)から一言
スマート農業が単なる省力化ツールではなく「人の可能性を拡げる技術」であることを実証した好事例である。ロボット田植機やドローン導入により、圃場面積を拡大しながら、障がいを持つ利用者を5名から17名へ増員し、就労機会へ繋げる。特に「安全性第一」の設計思想により、利用者が安全かつ高精度な作業実施を通じて自信を持ち、一般就労に向けて順調に取組みを進められている。勘と経験に依存していた農業を、データドリブンなプロセスに変革したDX推進モデルである。
取り組みにかかったコスト
| コスト | 約1億4千万円(補助金利用を含む) |
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相談先
| 相談先・活用施策 | 農林水産省、福井県、あわら市の補助事業 |
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お話を伺った方(役職・氏名)
| お話を伺った方(役職・氏名) | 執行役員 齋藤峰雄氏、株式会社農楽里 代表取締役 山下春美氏
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会社概要
| 事業者名 | 有限会社あわら農楽ファーム |
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| 代表者 | 舘 恭弘 |
| 所在地(住所) | あわら市山室72-101 |
| 従業員数 | 8名 |
| 事業内容 | 水稲、畑作物、施設園芸、農産加工品の製造、農作業受託 |
減農薬・有機質肥料による米づくりを行う。そば、大豆、イチゴ、柿などの栽培や農産加工品、観光いちご園を運営。 ディスカバー農村漁村(ムラ)の宝認定(令和6年度)、ノウフク・アワード2023準グランプリ(令和5年度)、フクイふるさと納税事業者AWARD大賞(令和5年度)、いちほまれコンテスト最高賞(令和3年度)
