ポイント
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1RFIDタグにスマホをかざすだけの、シンプルな情報提供システム。
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2人に頼っていたコミュニケーションを、デジタル化・多言語化・効率化。
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3システム化で生まれた余裕を、接客の充実などサービス向上に集中できる。
インバウンド増加で生まれた、情報提供の悩み。
IIOプロデュース株式会社は、坂井市三国地区でレストランと土産物販売店、宿泊施設を併設したオーベルジュ型の宿泊施設「みくに隠居処」を運営している。コロナ禍で足踏みしているが、越前がにシーズンや夏休みには、中国や台湾、香港、韓国を中心に海外からの利用客も多く訪れるようになってきた。こうしたインバウンド客が来店した際、レストランでは料理や使用する食材についての質問を受けることが多く、対応に手を取られて繁忙時には店内のオペレーションに支障を来すことがあった。宿泊利用時にも、国内では一般的なマナーが周知されていないため、大浴場や客室の使用後にトラブルが発生することもあった。
利用客の多国籍化に対応するのに店員の言語対応能力には限界があるため、RFID技術を用いて、簡便に利用客のスマートフォンに情報を提供できるシステムの構築に着手。特に要望の多かったレストランでのフードバリアフリー関連情報と、宿泊時に支障が生じることの多かった日本での入浴時のマナーについて、スマートフォンに表示できるアプリサイトを制作した。
RFIDタグスポットから、アプリサイトにアクセス。
情報提供の仕組みは、レストランのテーブル(6卓)と、土産物売り場(2カ所)、各客室(3室)に、スマホをかざすとアプリサイトが表示されるRFIDタグスポットを設置。アクリル板製のスマホスタンド状の同スポットには、情報提供サイトへのリンク情報を入力したIC(RF)タグが貼り付けられ、スマホはNFC(近距離無線通信)機能でタグから情報を無線で読み取り、アプリサイトが表示される。
スマホによってセンサーの位置が異なるため、どの機種でも確実に読み取りができるようスポット裏には9個のタグが並ぶように敷き詰められている。NFC機能がないスマホや、同機能をオフにしていても対応できるよう、サイトのQRコードも印刷されている。
本事業では館内の通信環境を充実させるとともに、業務用と利用客用のネットワークを分けてセキュリティ面を整えるなどのWi-Fi設備の見直しも行った。
システムの構築作業は、同市内でパソコン関連支援事業などを手がける地元のシステム会社に一括して委託。事業は福井県の「令和3年度IoT・AI・ロボット等導入促進事業(IoT普及枠)」の採択を受け、2021年9月から、ハード面の整備やアプリサイトの制作に着手。22年2月からシステムの運用を開始した。
視覚的情報も交え、フードバリアフリー情報を提供。
フードバリアフリーとは、食材や加工方法について分かりやすく表示することで、食物アレルギーや生活習慣病などの健康上の理由や、ハラールやベジタリアンなど文化・宗教上の理由がある人にも食事を安心して選び、楽しんでもらおうという取り組み。
レストランと土産物売り場のスポットからは、フードバリアフリー関連情報を表示する。アレルギーに関連して表示義務が定められた特定原材料7品目(卵、乳、エビ、カニ等)に加え、豚肉や鶏肉、アワビ、イカなど表示が奨励されている原材料も含めた全32品目について、使用の有無を日本語、英語、中国語で使用の有無を表示。併せて、「越前がに」「若狭牛」などの銘柄や産地、「天然/養殖を使用」など食材についての詳細な情報も添えられている。文字情報に加え、日本フードバリアフリー協会が作成したピクトグラムで視覚的な情報も表示する。
坂井市や福井県が作成した越前がにや甘えびのPR動画も埋め込まれている。料理の提供待ちの時間に見てもらうことで、特産の食材についての理解を広げてもらうとともに、土産物として販売している冷凍甘えびや、グラタンなど甘えび加工品の販売にもつなげていく。
客室のスポットからは「日本の温泉マナー」を日本語と英語で説明するアニメーション動画が埋め込まれている。併せて、英語と日本語で「日本の温泉は裸で楽しみます。水着は着用できません」「湯船に入る前は、体を洗い流します」などの説明文が添えられている。説明はマナーだけでなく、温泉成分を生かした体にいい入浴のコツなども紹介しており、宿泊を機に日本の温泉文化への理解を深めてもらいたいとの思いもある。
コミュニケーションの効率化で、ホスピタリティを高める。
越前がに目的などで訪れるインバウンド客は、使用している食材の産地や安全性などに高い関心を持っている場合が多く、接客を担当する従業員が料理についての質問に対応する際には、言語面でのコミュニケーションの難しさも相まって、長時間拘束されてしまうケースが少なくなかった。そうした利用客への最初のコンタクトを、多言語化したアプリサイトに委ねることで、接客担当者が担う業務をスリム化でき、フロアが混雑する繁忙期でも効率的なホール運営ができるようになる。
宿泊面でも、日本でのマナーを知らずに入浴したため浴室や更衣室がずぶ濡れになったり、客室の汚れや香水の残り香で他の宿泊客を受け入れられなかったりする場合もあったが、マナーの周知によってこうした機会の損失を減らすことも期待できる。
少子高齢化が進み、人材の確保が困難になることが見込まれる中、インバウンドとのコミュニケーションを、スマホをかざすだけという簡易な方法で効率化することで、必要なサービスに必要な人材を充てることができ、ホスピタリティの向上にも貢献する。
今後の展望
コミュニケーションの問題から、インバウンド客への対応に苦慮する飲食店や宿泊施設は県内でも少なくない。北陸新幹線の福井県内延伸や、コロナ禍の収束後には、再びインバウンドの増加が見込まれる中、同様の悩みを持つ事業者に対し、将来的には今回構築したRFIDによる情報提供システムをパッケージ化し、地域のサービス業に広く横展開して事業化していくことも目指している。飲食・宿泊に加え、プロデュース業を強化する上での、新しい事業の柱としても位置づける。
取り組みにかかったコスト
コスト | 非公開 |
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補助金 | 令和3年度IoT・AI・ロボット等導入促進事業(IoT普及枠)採択 |
相談先・業務委託先
相談先 | cloudy cloud合同会社 |
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会社概要
事業所名 | IIOプロデュース株式会社 |
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代表者 | 代表取締役社長 伊藤俊輔 |
所在地 | 坂井市三国町宿3-7-22 |
従業員数 | 6名 |
取扱品目 | 飲食・宿泊、鮮魚買取・販売 |